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競業避止義務契約が有効であると判断される基準
皆さんこんにちは。社会保険労務士の藤武です。
先日、顧問先の社長から競業避止義務、つまり帰属している企業と競合する企業に就職をしたり、自ら起業するなどをしてはいけないという義務について問い合わせを受けました。
この競業避止義務については、労務管理においてもよく質問を受ける問題です。
企業側の視点で確認をします。
まず、競業避止義務という観点で、その義務について法的根拠があるのは役員である取締役です。会社法第365条の規定により、取締役会の承認なしに競業行為をしてはならないとされています。取締役は会社のために行為をするものという位置づけであり、当然のことと言えます。
では従業員はどうかというと、こちらも労働契約において信義誠実の原則として競業避止義務を負うものと解されています。
ただ、この競業避止義務は、取締役も従業員も、在職中での義務とされており、退任後、退職後は職業選択の自由の観点からその義務は生じないことが原則です。
通常この競業避止義務について問題となるのは退職後のことがほとんどであり、企業が従業員に対して、退職後も競業避止義務を課す場合には、就業規則や誓約書などを備えることが重要になります。
では、競業避止義務を規定している又は誓約書などを提出させているという前提で、それが有効とされる主なポイントを、「認められる可能性が高い」⇔「認められない可能性が高い」という視点で挙げます。
①競業避止義務期間が、「1年以内となっている」⇔「2年超となっている」
②禁止の範囲が、「業務内容や職種等によって限定を行っている」⇔「一般的・抽象的なものとなっている」
③代替措置(競業避止義務を課すことを目的とした(あるいはそれとみなされるものとして)高額な賃金を支払っている、相当の退職金を支払っているなど)が、「設定されている」⇔「設定されていない」
①退職後に競業避止義務を課す期間は2年を超える場合は否定される可能性が高くなります。ただ、その期間が1年であっても禁止行為の範囲が抽象的であるとして、否定されている判例もあります。
②業界の事情によっても変わりますが、企業企業への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多く、業務内容や職種等を限定した場合は肯定される方向に振れます。
③代替措置は、裁判において他の要素よりも重視されることが多い要素です。代替措置がない場合には、それを理由のひとつとして否定されている判例が多くあります。ただ実際は競業避止義務を名目として明確に定義されているものは少なく、その場合はみなし代償措置として判断されています。在職中の業務に対して高額な賃金を受けていれば、その業務に対して企業が重要視しているということであり、競業避止義務の対価として相当の賃金を支払っているとみなすことができるという理論です。ただし、競業避止義務規定を制定した前後で賃金が変わらなかったということから代替措置があったとはいえないと判断している判例もあります。
以上が、主なポイントになります。
なお、競業避止義務を課す前提として、企業側に営業秘密等の守るべき利益が存在することは当然に必要であり、上記判断要素も複合的に判断されるということを理解する必要があります。
企業にとっては、営業手法・技術・ノウハウは守るべき財産です。
ただし、憲法で保障している職業選択の自由に対抗できるだけの競業避止義務を課す場合には、相当の備えが必要であることに注意し、慎重に規定を設けていく必要があることに注意しましょう。
藤武